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「“物流統括管理者”は荷主の義務。物流会社は、関係ないよね?」……いや、じつは関係あるあるなのだ!
物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム<あるある! 物流カン違い
物流分野に漂う22の勘違いを正す!
(2025.12.15)

◆それは『物流あるあるカン違い』
本コラムで何度もしつこく取り上げているし、最近は解説イベントも花盛りだから、読者各位も『改正物流効率化法(物効法)』のことはまじめに勉強しておられよう。本法は2025年4月から順次施行され、まず全ての荷主・物流事業者に「物流効率化(積載効率向上、荷待ち・荷役時間短縮他)」の努力義務が課された。そして26年4月には、荷主・物流双方の特定事業者に対し「中長期計画の作成、定期報告」が、そして特定荷主及び特定連鎖化事業者に対しては加えて「物流統括管理者の選任」が義務化される。
ここで筆者が標的とするのは、やはり「物流統括管理者」である。……「またその話かよ~!」とか早とちりを召されるな……今回はまったく別の視点から取り上げるのだ。そう、発着荷主の話ではなく、加えて「物流事業者にとって、「特定荷主や関係企業が物流統括管理者を設置することは、ホントに関係ないのか?」という重大な問いを発したいのだ。
結論から申し上げよう。「荷主じゃないんだからさあ…関係ないよ」とお考えのあなた! 私は断言する。あなたは、『物流あるあるカン違い』をしておられる!! 説明して進ぜよう。
◆荷主社内・社外の物流効率化に連携
重複を恐れず復習しておく。物効法では第47条【荷主】、66条【連鎖化】において、特定荷主及び特定連鎖化事業者に義務付けられた物流統括管理者の要件、業務内容が以下のように定められている(国土交通省、「物流効率化法」理解促進ポータルサイトより引用)。
図表1 物効法で規定された物流統括管理者の要件と業務内容

その解説文も分かりやすいので、箇条書きで挙げておこう。
⇒物流統括管理者には、物流全体の持続可能な提供の確保に向けた業務全般を統括管理する役割が求められる。
⇒業務遂行には、運送(輸送)、荷役など物流の各機能の改善だけでなく、調達、生産、販売等の物流の各分野を統合し、流通全体の効率化を計画するため、関係部署間の調整、取引先等の社外事業者等との水平連携や垂直連携の推進も必要。
⇒事業運営上の決定を主導するため、ロジスティクスを司る、いわゆるCLO(Chief Logistics Officer)としての経営管理の視点や役割も期待される。
2か所の赤字部分に着目してほしい。前者は荷主の「社内の物流の各機能の改善」を求めているのだが、この機能の遂行は社外に委ねることも多く、それを受託するのは皆さん、物流事業者である。また後者で連携すべきとされる「社外事業者・取引先等」とは、1つには共同物流等を実施する他の荷主各社であるが、この荷主相互間の運輸・倉庫業務を担う物流事業者もまた、連携すべき社外事業者であることは明らかだ。よって物効法の物流統括管理者規定は、
①物流事業者が発注元の荷主の物流統括管理者とともに、物流の各機能の改善に努める
②荷主同士の水平・垂直連携に、物流事業者も実行面で緊密に連携する
ことを、結果として求めている、と読むべきなのである。
どんな物流効率化策も、実際に日々の現場で業務を実行する物流事業者との間に、こうした相互理解、緊密な連携がなければ画餅に帰す恐れが強い。「運命共同体的一体感」の醸成にまで到達できれば、それに越したことはない。いずれにせよ、本法は「荷主と物流の連携深化」を促しているのだと、理解できる。だから物流事業者も「物流統括管理者? 関係ないよね?」と軽視ないし無視すべきではない――否むしろ、軽視・無視したら、損だ、と私は思うのだ。
◆荷主社内・社外の物流効率化に連携
以上は簡明な内容だから、まずご理解いただけるものと思う。だが一重立ち入った次の論点は、いささか深い話なので心して聴いてほしい。
本コラム⑱(25年9月)で触れた「CLOの定義と役割」を策定した(一社)日本フィジカルインターネットセンター(JPIC)が、その後、「物流事業者側にもCLOのカウンターパートとなる存在が必要」だとして、「LPD(Logistics Producer)」の設置を提唱しているのだ。「物流事業者やシステムベンダー等が置く、CLOのパートナー」だと説明されている。図表2を見てほしい。荷主相互間を、貨物を介して物理的につなぐのが物流だが、その実務を担う物流関連企業にあって、CLOと直接対峙し、やり取りする存在がLPD(図中の赤丸囲み)である。
図表2 JPICが考えるLPD(Logistics Producer)の位置づけ
((社)日本フィジカルインターネットセンター資料より引用)

政府が物流統括管理者とかCLOとか言い出すずっと前から、サプライチェーンの上流・下流との社外連携を模索し、実績を上げてきた元祖CLO的な、貴重な友人を私は複数もっている。その1人がこんなことを言っていた。
「多数の荷主企業にCLOが設置されれば、共同化とかで折衝するキーマン(権限者)を苦労して探す手間が省ける。CLO同士でやり取りすればいいんだからね。ありがたいなあ……」
そうなのだ。共同化や本格的な企業間連携による物流効率化提案は、相手の物流部門の長だけを相手にする限り、乗り越えがたい壁に直面することが多い。製造部門や営業部門が言うことを聞いてくれない、着荷主への提案が経営会議で却下された……まさに「あるある」だ。ところが、経営メンバーとして社内の全体調整や、取引先との戦略的協業条件調整にまで権限をもつはずのCLOであれば、そんな交渉もよりスムーズに進められるはずである。
このことは、対物流企業においても大きな意味をもつ。荷主の物流統括管理者やCLOは、経営管理層からの選任など、物流専門家でないことも多いと予想されている。そんなCLOが同業種異業種の荷主相互間で新たな共同物流に挑もうというとき、実行可能性や困難性を机上論ではなく、物流視点で具体的に吟味し、調整し、よりよい解決策を提案できる物流専門家が必要になる。CLOのパートナーとしてそんな役割を期待されるのが、LPDなのだ。
◆んなこと、ムリ?…いや、これはチャンスだ!
だから物効法「物流統括管理者」規定は、それに対応する組織体制を、物流企業側もまた、整えるべきことを推奨する意味を合わせ持つのだ。LPDだと言うなら、CLOと互角に渡り合える力量を備えた人材であることが理想である。前述のJPICによる「CLOの定義と役割」には、こんな役割が挙げられている。
<JPICが示すCLOの役割>
*オペレーション効率化・社内外調整による全体最適化
*サプライチェーンの全体最適化
*持続可能な社会と企業価値の向上
*地域社会の持続可能性促進、社会課題解決や災害対応、カーボンニュートラル
もし、このような経営者視点、サプライチェーン視点、社会課題視点を保持するCLOを相手にするのなら、LPDもまた、同等または近いレベルの経営・社会視点を備え、「同じ言葉で話せる」ことが望ましい。逆にCLOにとっては、物流の専門的知見と、経営・社会意識を兼備したLPDのいる物流企業こそ、解決策を共に考え、協働する心強いパートナーになるはずだ。さあ、どうだろう? 「物流会社にそんなこと…ムリ!」とさじを投げるのか、果敢にチャレンジするのか。私が思うに、これは「物流の価値」を高められる千載一遇の大チャンスである。
これまで、一部の荷主にとって物流は、誰にやらせても同じ、「コストダウンの対象」としか見られていなかった。別の友人の、元祖CLOの1人が自戒を込めて言っていた。
「かつての物流部長の仕事は、物流企業への値引き要求と、サービスの押しつけ、だった」
悲しい言葉だが、現実である。荷主が物流を持続不可能にまで買い叩きすぎたことが、現今の物流危機の大きな一因をなしている。
ところが、だ。物流企業がLPD的人材を磨き上げ、CLOに対し、可能な範囲でコストを抑制しつつ、より高品質な、サプライチェーン・ロジスティクス視点で社会課題の解決に資する、現実的な物流効率化策・戦略的取り組みを提案できるようになったとしたら……物流企業の提供する付加価値(収益・利益率)を大きく高められるはずである。
◆アサヒロジが挑む「社内物流コンサルタント」
よき参考事例があるので紹介しておく。アサヒグループホールディングスの物流子会社としてアサヒビールやアサヒ飲料ほかの物流実務を担うアサヒロジは、今回の法施行を前に、『荷主企業に寄り添う「社内物流コンサルタント」としての役割』の強化方針を掲げ、準備を進めている。私は同社の島崎副社長に取材したのだが、「荷主企業の立場での思考プロセスがわかるので、荷主(親会社だけでなく、今後は外部企業もさらに拡充予定)の立場に寄り添い、物流コンサルティングを含む改善提案と、対応策に応じた物流サービスの提供が可能」だというのだ。
これはまさに、物流企業が「CLOのパートナー役」を目指す意志の1つと見てよい。さらに進んでこうした伝統的物流企業が、荷主の物流/サプライチェーン・ロジスティクス全体最適化まで視野に入れた戦略的提案を行えるようになれば、3PLをさらに一歩進めた4PL的な存在へと、その社会的価値を大きく高められるかも知れないのだ。
だから繰り返す。物流企業にとって、これは貴重な・一大チャンスである。法律の追い風を受けられるこんな機会はもう、数10年は来ないかもしれない。この歴史的オポチュニティを前に物流各社も腹をくくり、言われるままに運び・保管するだけの受動的存在から脱皮し、21世紀型の物流・ロジスティクス企業へと、大きく成長してほしい。私は心からそう願っている。
著者紹介

菊田 一郎 (きくた いちろう)
エルテックラボ 代表/物流ジャーナリスト。1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。2017年6月より大田花き社外取締役、2020年6月より日本海事新聞社顧問(20年6月~23年5月)、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル顧問。
著書に『先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える』(白桃書房、共著)、『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」』(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。
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