<あるある! 物流カン違い/シーズン2> ~人材施策編~ 物流現場は、「気合と根性だっ!」? 体育会系人材”優先採用で留意したいこと

物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム
<あるある! 物流カン違い/シーズン2>
~人材施策編①~

好評連載「物流あるある!カン違い」は、今回から<シーズン2>に突入する。お題は「人材施策編」とした。そのココロは? シーズン1でも折々触れたことであるが……
わが国の厳しい人口動態、働き手のメンタリティ変化、人口減少下でもB2Cで根強い物流需要……等々の環境を考え合わせると、「物流・超人手不足」の時代は2040年前後まで続く可能性が高い。ドライバーや働き手のリソース不足を主因とする現今の「物流危機」は、2024年/2030年に限らず、長期にわたり継続するということである。

となると? 今後10数年、物流現場をもつ荷主の物流部門や物流関連企業においては、「人材の確保と定着」が最大の経営課題の1つになる。ドライバーだけでなく、働き手に選ばれにくい3K環境のままなら、倉庫・物流センターの現場作業者や社員の確保・定着も相当ヤバい。対策を怠れば、人手が足りず「運べない/出荷できない」事態に陥る危険さえあるだろう。
だから! シーズン2では「物流人材の確保と定着」という一大テーマの緩和・解決に資するヒントを、毎回、工夫を凝らしてお届けすることにした。どうかご愛顧を賜りたい。

物流企業は押しなべて、学生時代に体育会系部活の経歴を持つ人材がお好きである。厳しいスポーツ・競技の基礎から実戦まで、鍛錬を通じて培われた「気合と根性」。オールフォーワン・ワンフォーオールのチームワーク第一主義……軟弱文系部活出身の筆者は畑違いなのだが、知人の倉庫会社の社長さんが先日も、「ウチは体育会系人材が中心で、みんな頑張ってくれてますよ!」なんて得々と話していた。物流現場では今なおフィジカルな力仕事も多いので、とりわけ体力・持久力に秀でた体育会系人材のニーズが高いのである。
 まあ理解はできる。「伝統的な体育会系人材」の評価点をまとめると、こんな感じだろうか。

 *厳しい先輩⇒後輩の上下階層意識を、構えとして染みつかせている
 *なので常に先輩=上司を立ててくれ、チームワーク意識が高い
 *命令や指示には「はいっ!」と従う
 *体力勝負の仕事も「気合と根性」で辛抱強くこなしてくれる

 *状況変化の検知と迅速な対応判断に秀でている

……これは業界の社長さんたちの描くイメージと、さほど乖離していないと思う。こう書き出してみると、確かに、雇う側にしてみれば嬉しいことばかりだものなあ……。私にも社長経験があるから、それはようく分かる。

初めに誤解のないよう言っておくが、私は体育会系人材を貶めようとしているのでは、まったく、毛頭、ない。現実に私はこの業界で大活躍するラガーマン社長・幹部を何人も知っているが、みな素晴らしいリーダーである。ただ、部下として集めて仕事を任すに際し、上司がその「従順さ」ばかりを重んじて安易or過度に依存するとしたら、ヤバいかもね、と申し上げたいのだ。

たとえば……その会社が体育会系など従順な人材の優先採用を続けるうち、社長や上司が安易な「部下の簡便統率感覚(四の五の言わず何でも言うことを聞いてくれる)」に甘える体質に染まってしまうとしたら、それは危険な兆候ではないかと思う。実際にはその指示を順守することには問題があったのに、現場人材が唯々諾々と従ってくれたとしよう。その結果問題が発生したら? もちろん実行した部下のせいにする。指示した上司は? 責任を取らない。責任を感じることもない……。

これが「物流あるある」ではないことを私は願いつつ、若干危惧している。こんな指揮命令系統が常態化している現場があるなら、まず<①問題が「見えない化」される>ことに留意しよう。
「顧客のクレーム」と同じく、「問題発生」は一般に、改善の扉を開く「問題発見」の端緒となる、絶好のサインである。人的対応の不適切、計画や予測の不具合、システムのバグ、仕組みやルールの不具合、判断・実行方法のミスやカン違い、組織管理やガバナンス体制の不備……。

並べ始めたらキリがないのだが、これらの問題を早期に検知し、真因を深掘りし、PDCAで改善につなぐことを本来、組織は最優先すべきである。そうした自己修正力・自己成長力を備えた組織こそが、持続力を発揮できるからだ。それが、従順で声を挙げ(られ)ない人材に甘えきった現場では、この人たちが問題を黙々と吸収してくれるゆえに、見えなくなり、問題を機会へと反転させるチャンスを失う危険がある。
それが最悪、組織的問題の隠蔽や、上司のミス・不行き届きを糊塗する結果につながるとしたら、どうだろう? とりわけ中間管理職の皆さんや、現場リーダーには注意を喚起したい。こんなケースさえ考えられるからだ。

……実は上司や現場の仕組み・ルールに問題があることに、あなたは気づいている。けれどそんなこと、上司や社長には言いにくいし、言いたくない。「俺のせいじゃないし……いつか、誰かが気付いて直してくれるさ……直らなきゃ? この会社、終わりかもなあ……」

近年の様々な企業不正事件で明らかになった通り、これは冗談でなく、一流企業各社でも実際に起こっていた現実である。とりわけ、ワンマン社長など圧の高い上司を頂いた現場では、こんな厭世的、虚無的な空気がチームに瀰漫し、活力を損ないやすい。私は独裁トップと部下のはざまで長年月、悩み苦しんだ親友を持っているので、この点は断言できるのだ。問題が見えていても、見えないフリをする/せざるを得ない、淀んだ空気感に浸されて……(思考停止が心地よくなってしまったら、オシマイ)……誰もが陥りうる落とし穴であることを理解されたい。

では、①「見えない化」リスクの回避の方策は? ……これはもう、明らかだ。「変化や問題を数値で客観的にとらえ、速やかに対処する仕組み作り」に尽きる。その理想的な事例を、シーズン1第20回「物流を科学する?」に示してある。ある荷主の物流部門が38ものKPIを設定して毎月、変化する数値を検証し、発見した問題に迅速対応する「客観的ルール」を構築し、成果を挙げていた。「物流実態のデジタル見える化」はICT、そしてAIを大いに活用できるテーマである。主観の入り込む余地の少ない数値で、クールに判断し、行動する――次項に示す通り、「気合と根性!」という見せかけのホットさに依存している場合では、もはやないのだ。

物流現場は、気合と根性だっ!?のイメージ

ここで今回の表題、<②物流現場は、気合と根性だっ!?>のカン違いに正対する。重ねて弁明しておくが、私は「気合と根性」を無下に否定するのではない。逆で、健全な気合と根性は人生に不可欠だと思っている。それによる成功は大きな達成感をもたらしてくれ、成長できる。
私が懸念するのは、「気合と根性」が不健全な、姑息なごまかし手段にされる場合に限り発生するリスクである。たとえば、「うまくいかないけど、何が問題なのか見えない……見えても、すぐに解決なんてできないし……なら、気合と根性で、やるっきゃないっしょ!」という一見ホットな、威勢の良い意志表明がなされる場合だ。

 危ない……じつに、アブない。
 第一にこれは、はなっから「なぜ? なぜ?」深耕での問題の真因特定の意思と、改善への意思を放棄している。「そんなめんどくさいこと、してるヒマ、ないっす!」という現場感覚は、分かる。ただでさえ上司からは「早く、正しく、安くやれ!」という無理難題を吹きかけられているのだから。それも実は、顧客に突き付けられた一方的な過大要求から来ていたりするのだろう。

だが問題の先送りは、いつか限界に突き当たる。この場合、「問題の先送り」の一番の問題点は、上司の不適切な判断で現場に不具合や矛盾が発生しているのに、その解消を「現場の気合と根性」に丸投げし、ムダ・ムラ・ムリ作業を押し付けることだ。この根本問題に気付きながら押し黙り、思考停止して、従順を装う担当者の思いには忸怩たるものがあるだろう。
そして、堤防はついに決壊する。濁流が予想もしなかった勢いであふれ出し、あなたと上司を飲み込んでしまうかも知れない。どれだけ気が進まなくても面倒でも、「問題の早期発見と報告、可及的速やかな対処」が、あなたの会社を救うことになる。

万が一には、「本当のことを指摘したら、上司に逆ギレされて……」なんていう可能性も排除できない。もし本当にそうなったら、見限ればよい。そんな組織が長期的に持続可能なはずはなく、無用な長居をすべきではない。幸い、有意の物流人材ニーズは日々、高まっているのだ。
そもそも、体育会系だったとしてもイマ時の若者に、「気合と根性」論が通じる可能性は、どれほどあるのか? 私が日々接触しているスタートアップ経営者クラスなら、「気合と根性で働いて働いて…」感覚が通用する人材も多いけれど、ワーカークラスがそうだとは、とても思えない。

上司が矛盾に立ち向かうことを恐れ・逃げ、部下に不合理な仕事を押し付ける……働く人の尊厳をないがしろにするそんな組織は、もはや生き残れない時代である。ゆえに<②物流現場は気合と根性!>のリスク回避の方策は、前時代的発想から脱却し、「働く人の尊厳と社会の環境を守る」というあるべき組織の構えを再構築する、という本質策に立ち戻ることだろう。


以上はシーズン1の第7回(24年10月)でも触れた、「心理的安全性」の逆バージョンの1つでもある。思ったこと、気づいたことを口にできないチームの心理的安全性は低く、人材の定着を大いに妨げる。ありていに言えば、せっかく確保した人材も、嫌気がさしてほどなく辞めていく。するとまたも求人コストをかけて採用し、またしても教育コストをかけて現場に投入するのだが、長続きせず……という「地獄の人材サイクル」に陥ることになる。

改めて、「物流は気合と根性」の何が悪いのか? 何が問題なのか?
そこに潜んでいるかも知れない、「ほんとうの問題から目を背ける、安易な・軽率な・卑怯な構え」が、組織を本質的に損なう可能性があるからだ。
2000年以上前、ユリウス・カエサルは言った。「人は、見たいと欲する現実しか見ていない」。ありのままを見て、険路を踏み越え、行動に移す人にこそ、栄冠をつかむ資格はあるのだ。

(つづく)


著者紹介

菊田 一郎 (きくた いちろう)
エルテックラボ 代表/物流ジャーナリスト。1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。2017年6月より大田花き社外取締役、2020年6月より日本海事新聞社顧問(20年6月~23年5月)、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル顧問。
著書に『先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える』(白桃書房、共著)、『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」』(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。


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