「物流2024年問題」って、もう終わった?~いや…これからが問題なのだ~

物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム<あるある! 物流カン違い>物流分野に漂う22の勘違いを正す!

(2025.5.15)

「物流2024年問題だ! 大変だ!!……とか騒いでたけど、もう終わっちゃったよね?」
「もう2025年度だし。ウチはまあ、それほどでもなかったよ~」

……なんて、早くも脱力しきっている荷主の物流担当者さん! その辺におられたりしないだろうか? いや……甘い。もしかしたらそんな思い込みは、「あるあるカン違い」かも知れないのだ。なぜか? 私がそう考える根拠を、今回はいくつか書いてみたい。

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まだ5月時点では2024年(度)の統計数値はまとまり切っておらず、確言できない部分もあるのだが、いくつかの調査報告や事業者の話によると、政府が根拠とした「(このままでは)2024年に(2019年並みの物量が回復するとしたら)輸送能力が14.2%、営業用トラックの輸送トン数が4.0億トン不足する!」という深刻な2024年(度)物流危機は、マクロ視点では、概ね回避された模様である(個別のミクロ視点ではいくつも問題が報告されている)。
その理由は第1に、2024年に「2019年並みの物量」が回復しなかったことだろう。『間違いだらけの日本の物流』(2025年3月発刊、矢野裕児・首藤若菜 共著)によると、「輸送トン数は、2019年に41億1740万トンだったが、(中略)2023年も37億8050万トンと2019年比でおよそ1割低下。2024年に入ってからも、月あたりの貨物量の対前年比は大きく変わらない。輸送トンキロでも、2019年と比べて数値は下がったまま」というのが実態だったらしい。図表1に23年までの国土交通省の統計資料を引いておく。
物量が戻り切らなかった原因は、1つにはマイナス面として、コロナ後の景気回復にイマイチ状態が続いたこと。給与アップがインフレ進行に追いつかず実質手取り額は減り、消費の盛り上がりに欠けたことが大きい。もう1つはプラス面で、日本の物流が「このまま」ではなかったことである。政府の指摘は2022年の調査結果を元にしているので、「このまま」とは「22年ないし21年のまま」という意味になる。なぜそうなったのか?

予見された物流危機回避のため、いくつもの産業界が本気で立ち上がったからである。一部だけ例を挙げれば、厳しい物流力の供給不足が予想された加工食品業界では、メーカー各社の積年の努力が実り、受け荷主側の業界団体である日本加工食品卸協会と傘下企業が「バース予約システム」の導入を加速。さらにその下流のスーパーマーケット業界でも「SM物流研究会」等が同様の取り組みを展開してきた。その結果、ドライバー・物流会社を苦しめるだけで1円のメリットをも生まないムダの塊である「荷待ち時間」の削減が徐々に進展した。また各業界で共同輸送やモーダルシフトにも一定の進捗が見られた。その分、ドライバー・車両の可動時間が増えて輸送能力の不足を補ったことは間違いない。
ただし、何の問題もなかったわけではない。私は上記のSM物流研究会に参加するある会社の物流部長さんから、「今までは、店舗配送の物量が集中する生鮮1便(開店前に店着)で、予想より物量が増えたその日の朝、運送会社にスポットで車を頼めばすぐ来てくれていました。ところが今では、<車がありません>とにべもなく断られるようになってしまいました」と直接聞いた。ドライバーの時間外労働時間・拘束時間削減の影響は、確実に出始めているのだ。

本コラムの常連読者であられるなら、連載第1回<「物流2024年問題」が4月から始まった?>を読んでいただいたかも知れない。まだの方はぜひ目を通してほしい。
私の主張は一貫していて、「物流2024年問題が顕在化するのは、2025年(から)」である。要点のみ繰り返せば……法規制が削減を求める「年間労働/拘束時間」の、「年間」とは、いつからいつまでなのか? 4月-3月の「年度」が多いかと思うが、そう決まっているわけではない。事業所ごとに「36協定」で決めた起算月からの1年が、その「年間」になる。
起算月が4月なら、2024年4月から2025年3月までが「年間」だった。もしドライバーの労働時間をきっちり管理していなくて、年度末の繁忙期になって計算してみたら、「あ。このドライバー、もう拘束/残業できないわ。え、こっちもだ!」とか気付いて、動かせる車両数が激減する……というホラーストーリーを回避しなきゃいけないと、私は2023年から訴えてきた。
「でも、今は5月だし……もう大丈夫っしょ!」
……いや残念ながら、そうとは限らないのだよ。上記の「起算月」は、聞いてみると4月以外にも下期となる10月が割と多い。また1月からの暦年とする場合もあれば、2月とか5月とかの会社の決算月に合わせた場合など、様々だ。
本法の適用は施行前に時間を遡及しないので、2024年4月の法律施行以降の起算月からの1年が、「年間」になる。起算月が10月なら「2024年10月~2025年9月」が、1月なら「2025年1月~2025年12月」が「年間」だ。いずれも労務管理不十分で、気付いた末期になって「もう運べない!」という危機に陥るかも知れないのは、これからなのだ。

この「年間」の上限は2025年以降も毎年、私たちを規定する。一方で我が国の生産年齢人口は、この間も急速な縮減を続ける。昨今報道されている通りで、15-64歳の人口は今も毎年、「65万人」前後も減り続けている。放っておいても高齢化で退出ドライバーが増えるのに加え、全国平均より労働時間が約2割長く、年間賃金が5~15%も低いままでは、ドライバーは十分集まらず、今後も状況は厳しさを増す。となると、「このままだと」の政府予測その2……
⇒「2030年には、輸送能力の34.1%(9.4億トン)が不足する可能性あり!」
⇒「2030年には、営業用トラック運転者は21万4,086人不足する可能性あり!」

……が、現実化しないとは、限らないのだ。これを「物流2030年問題」と呼ぶ人もある。「2024年問題、もう終わったよね!」などと能天気に浮かれている場合ではないのだ。

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この「ドライバー不足」の回避策・対応策については巷間、山ほど書かれ、言われているので、ここに繰り返すことはしない。ただし、それらの多くで配慮が欠けがちな重要視点について1つだけ、再度言及しておきたい。
私が言うのは、その施策は「何のためなのか?」という根本視点である。「物流を止めないため」――それは疑いもなく正しい大義であり、誰もが納得する名分だろう。けれど、この一面だけに目を囚われていては、いけないのだ。止まらない物流を本当に持続可能にするためには、さらに一段掘り下げて、物流力の安定的な需給循環の土台を確立する必要がある。
その根本施策は? 「物流、ドライバーの仕事を、人間らしい尊厳とやりがいのある仕事=ディーセント・ワークにすること」だというのが、私の年来の主張である。皆が喜んで物流の仕事を選んでくれる世の中にしなければ、物流は持続可能じゃないからだ。逆に物流やドライバーの仕事を軽んじ、見下し、侮ってきた人があるとしたら、「運べない」という因果応報を受け取ることが、天の配剤というものだろう。
そんな公正な、働く人を心から大切にする社会へと、この日本と物流を整え直すことが、今を生きる私たちの最大の務めだと私は思う。

                                                    (つづく)


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