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物流を「科学する」なんて、とてもムリ? ……いいや。物流KPI管理を徹底したこの事例を見よ!(総合食品商社・株式会社泉平の事例から)
物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム<あるある! 物流カン違い>
物流分野に漂う22の勘違いを正す!
(2025.11.15)

◆非科学的な“よい加減”物流
筆者も物流ジャーナリスト稼業を続けて40年、思い起こせば一昔前は物流について、こんなことがフツーに言われていたものだ。
☆『物流くらい、<科学的>なんて言葉が似合わない仕事もない!』
☆『今日どれだけ荷物が入荷するのか、どれだけ出荷するのか、直前まで分からんものね』
☆『計画の立てようがないし。なら、つど“よい加減”でやるしか、ないよねえ…』
こんな諦めの言葉をつぶやきつつ、荷主や顧客の判断1つで振り回される「従属的な物流の立ち位置」に甘んじてきた現場は、案外多いのではないだろうか。運輸・倉庫の物流業界だけではない。製造・営業の指示下にある、荷主の物流部門も同様だった。
ひょっとしたら、今なお?……そうだとすれば、現場改善、物流改革で現状を変革し・脱皮しようなんて気持ちも、なかなか起こるまい。言われるままに受け、言われるままに出し・運ぶだけ。ただし、最低のコストと時間で――それが物流部門の役割と思われてきたのだろう。やる気が出ないのも当然だ。モチベーションが低い現場の生産性は停滞し、明るさが失われていく。悪循環に陥ったら、おしまいである。だが、これが「物流あるある」だったのだ。
◆物流改革プロジェクト
意外なことに、その物流現場も、かつては「あるある」の通りだったらしい。ここで取り上げる現場とは、西日本に展開する総合食品商社・食品卸売業、株式会社 泉平(いずへい)の事例である。以下の内容は去る10月に東京・大阪で開催された(株)内田洋行主催の「UCHIDAビジネスITフェア2025」(https://www.uchida.co.jp/system/itfair/ )にて、筆者がファシリテータとして参加した同社・山口大介執行役員物流本部長との対談セミナーを通じ、取材した内容である。山口氏は13年前の自社の物流現場の状態をこんな風に説明していた。
☆営業が注文をとったら終わり。後は倉庫と配達で作業が終わったらそれで終わり。
⇒課題を課題と感じない文化
☆増え続ける取扱SKU数と端数在庫/現場で決めた統一性を欠いた荷姿単位
☆どこにあるのかわからない在庫置場/属人的な発注管理/掌握できない誤出荷件数
☆各顧客の様々な受注締め時間/算出できない物流コスト……etc.(一部略)
そのままでは、持続的発展が可能と思えない。だが同社は、立ち上がった。現状を重く見た経営陣が外部から山口氏とその先輩を招聘し、両氏が物流部門リーダーに着任。「AI物流PJ(All Izuhei 物流プロジェクト)」を開始したのである。2012年のことだった。
プロジェクトの目的は、「拠点統合と物流業務の見直し――①リスクマネジメント、②市場対応力強化、③体質改革」と打ち出した。コア手段の1つとして、内田洋行の「スーパーカクテル販売管理」を導入し、稼働。WMS機能も拡充し、ピッキング用のVoiceシステムのほか、後年には無線ハンディ端末やDAS(デジタルアソーティングシステム)などを連動させている。物流拠点については2014年に3拠点を統合した近畿DC開設に続き、岡山、福岡、姫路の各拠点を整備していく。
この間に、山口氏らはもう1つの重大な決断を行った。それが「物流KPI(Key Performance Indicators、重要業績評価指標)」の本格導入である。
◆全4拠点で38のKPI+KGI管理
そのきっかけは意外にも、立ち上げ当初の近畿DCで遭遇した大混乱だった。「統合直後の6か月間は、まさに“仁義なき戦い”でした」と山口氏は述懐する。不動在庫の山、返品の山、誤出荷の嵐、劣悪な残業……容赦ない現実を前に、途方に暮れた日もあったに違いない。
だがこの渦中にも、山口氏らはSKU削減、ロケーション整備、システム改良、顧客交渉……と改善のうち手を重ねていく。その中で、KPI管理の重要性に改めて気づいたというのだ。KPIの数値を追うことで初めて、現場の状況変化を把握し、対策が採れる。「管理基準を明確にすることで、改善文化が確立できるのではないか」と思い立ったのだ。その背景には「科学的管理」を進めようと決意した経営陣の意志があった。これらがかみ合い、『物流を科学する!』を合言葉に、怒涛の前進が開始されたのである。2014年のことだった。
当初は荷役/配送/発注/資産管理/受注の5カテゴリーで19項目のKPIを立て、問題の近畿DC1拠点だけで運用を始めた。19でもかなりの項目数である。しかしそれが今では、全4拠点で共通する「38項目」ものKPI(中間目標)+KGI(最終目標、Key Goal Indicators、重要目標達成指標)を立て、毎月、進捗管理を実施しているというのだ(図表1)。ここまで細かなKPIを監視していれば、問題要因をピンポイントで、科学的合理性をもって発見し、対処できるはず。たとえ従属的立場にあっても、物流の実態を見える化することで、主体的な改善・改革の糸口がつかめるだろう。これほど徹底した事例を筆者は他に知らない。
図表1 全4拠点で運用中の38項目のKPI+KGI (㈱泉平提供)

◆KPIでPDCAサイクル
だが実は、大事なのはここからだ。いくら多数のKPIを設定しても、それだけで達成したつもりになり、肝心の「変化への気づき・改善への運用管理・実践」というPDCAサイクル回しがおろそかになってしまっては、意味がない。
泉平ではどうだったのか? 山口氏は「毎月の物流会議では部門リーダーから設定目標を未達成のKPIだけを報告してもらい、対策と効果をチェックしています」と話す。なるほど、「KPIは達成して当然」との意識づけが、すでに定着している模様である。しかし算出すべき項目数がこんなに多いのが少々気になった筆者は、「38ものKPI/KGIを毎月、算出するのは大変なのでは?」と聞いてみた。
すると山口氏は、「WMSで自動的に採れる数字も多いほか、顧客への納品検品後でないと採れない配送誤納品指標などもありますが、(必要な数字がすぐ採れるよう)仕組み化しているので、手間はさほどかかりません」とのことだった。なるほど。
話はまだ終わらない。こうしてKPIベースのPDCAサイクルを回すことで、現実に各指標が改善され、最終結果となるKGIも改善できているのか? これこそがポイントだからだ。まず代表的な5つのKPIをみると、以下の成果が出ているという(2021年⇒2024年対比)。
①荷役人時生産性指標(1人1時間での2次仕分け行数)…37.1行⇒43.8行
②棚卸マッチ率(実棚卸数が理論在庫数と完全にマッチしたSKU数/棚卸SKU数)
…83.5%⇒93.2%
③配送積載率指標(納品ケース数/最大積載ケース数)…68.5%⇒80.2%
④配送1D粗利額指標(1Dとは1回の納品金額、1納品先1か月粗利金額/1か月納品回数)…4,762円⇒6,939円
⑤荷役誤出荷指標(1か月誤出荷数/1か月総2次ピック行数)…236ppm⇒121ppm
どうやら確かな改善実績が上がっている様子である。
◆結論としてのKGIは
次に、最終結果としてのKGIはどうか。図表2に「物流効率」「物流品質」という、物流の核心的な成果指標2点のKGI推移を示す。先のKPI同様、着実に毎年、改善を示していることが分かる。それもKGIを左右する課題を高解像度KPIで把握し、科学的アプローチで問題改善を積み上げ、結果につなぐことが可能だったからに違いない。
図表2 物流KGIの推移/効率と品質 (㈱泉平提供)

もう1点注目したいのは、左の効率指標として、一般には「対売上高物流コスト比率」を持ってくる企業が多いのに対し、「対粗利高物流コスト比率」としている点である(前項④のKPI「配送1D粗利額指標」を参照)。売上だけ見るのでなく、「その仕事によって実際どれだけ、利益を出せているのか?」を常に問い、追求し続ける姿勢がそこにある。明快だ。
こうして山口氏の講演資料タイトル「物流を科学する!」という看板に、ウソ偽りは微塵もなかったことを筆者自身、納得したのであった。この成果をもってすれば、「従属的な受け身の物流」から、「主導的な提案型物流」への革新も視野に入る。物流企業なら、荷主に対しパフォーマンスを最適化する施策提案。荷主の物流部門なら、製造・販売や調達まで巻き込み、物流のみならずロジスティクス視点での全社改革提案さえ可能になるかも知れない。
* * *
普通なら、ここまでで「めでたしめでたし」「すごいじゃん!」で話が終わるところなのだが……筆者は山口氏が上記資料の直前に示した、図表3のもつメッセージを見逃さなかった。
そこには本部方針として目指す「競争優位」の説明として、一般的な理解である「社外から見た優位性」だけではなく、あえてもう1つ、「社内から見た優位性」が併記されている。そして後者は、社員に「この会社に勤め続けたい」と思ってもらえること、と定義されているのだ。
これこそ私が現在、声を涸らして叫んでいる、「物流の持続可能化の必須要件の1つは、働く人を心から大切にし、心理的安全性とエンゲージメントを高め、会社に定着してもらうこと」だとの主張と一致する。そうなのだ! 確かに「効率」「品質」というKGIの達成は重要である。だがさらに上位の視点に転じたとき、これらを含めた対他社の「攻めの優位性」とともに、社員のエンゲージメント獲得という「守りの優位性」が両立できて初めて、事業は持続可能となる。
図表3 (株)泉平・物流本部の方針

じつは(株)泉平の徹底した物流KPI/KGI管理の上位大目標が、このような物流本部目標にあったからこそ、社内でも共感を獲得し、一見面倒に思われる38項目もの指標管理の実践・継続・定着が、管理者と社員の執念によって、実現されてきたのではないか?……そう筆者は思い至った。現場で、事務所で働いてくれる人たちに、会社は支えられている。その働く人たちを「本当に大切にする気持ち」を経営陣、リーダーが保持しているなら、それがみんなに伝わらないはずはない(逆もまた、真である)。
表面的な観察だけでは届かない、こんな深読み理解の努力を続けるなら、誰もが「物流で科学的管理とか改善なんて、とてもじゃないけどムリ!」なんていう「あるあるカン違い」を、回避できるようになるのではないか。私はそう期待している。
(つづく)
著者紹介

菊田 一郎 (きくた いちろう)
エルテックラボ 代表/物流ジャーナリスト。1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。2017年6月より大田花き社外取締役、2020年6月より日本海事新聞社顧問(20年6月~23年5月)、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル顧問。
著書に『先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える』(白桃書房、共著)、『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」』(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。
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