あるある! 物流カン違い/シーズン2~人材施策編“叱る”で部下は成長する?~この頑迷なる妄執から脱却せよ~

物流ジャーナリスト・キクタの連載コラム
<あるある! 物流カン違い/シーズン2>
~人材施策編[2]~

“叱る”で部下は成長する?
~この頑迷なる妄執から脱却せよ~

前回のコラム「体育会系人材もよいけれど、安易で過度な依存には留意」の流れに沿って、さらに一歩ずつ、深掘りをしていく。今回のキーワードは、「叱る」--体育会系部活の現場で、叱られ・しごかれ、鍛えられたと自認する体育会系人材もあろうかと推察するからだ。

「叱る」とは1つ次元が違うけれど、それがエスカレートした先に発生するのだろう、「体罰」に関する厚生労働省の実態調査(2020年)*1から話を下ろすことにしたい。調査によると、15歳から75歳の回答者・男女5000人のうち、体罰を容認する考えを持つ人がなんと、約4割(40.2%)もあり、18歳以下の子どもを育てている5000人のうち、半年以内に体罰を与えた人が3人に1人(33.5%)もあったと報告されている。……ええっ! いまだにそうなのか?  私も仰天の高比率である。筆者らの昭和中葉世代では確かに、小中高を通じて、昭和の軍隊みたいにビンタを得意とする先生が学年に1人くらいいた。私も何度か、頬を張られた。けれどそんな時代は、とうに過ぎたと思い込んでいたのだ。

実際にはつい先日も、某大相撲部屋で元横綱の師匠の、弟子に対する暴力事案が明らかになったばかり。高校野球チームでもいくつか暴力沙汰のニュースが遠くない過去にあった。上の数字は、そんな事件が後を絶たない社会背景をなしているように見える。

……となると? 体育会系のノリがあっても私たちの職場で体罰が許されるわけはないけれど、その前駆的軽量版としての「叱る」という行為が、まだ居残っている物流現場はあるのだろうか? 「叱る」ことが、「人材育成・管理の手段として肯定・容認されている」という意味である。そのデータは手元にないので、まあ「多少はある」くらいの前提で以下の話を進めたい。「叱れば人は成長する」という思い込みは、実は、「あるあるカン違い」だ!という話である。

結論を先取りすると、このお題で私がお伝えしたいメッセ―ジは、(1)叱ることに、効果はない、(2)叱ることは、多くの弊害を生み出す、(3)”叱るドランカー”のパワハラ上司が、現場を破壊する……ということである。うち今回は(1)(2)に絞って述べる。

以下は臨床心理士・公認心理師の村中直人氏による参考文献*1を足場に、筆者の所論に組み直して進めたい。まず、辞書で「叱る」を引くと……


[叱る]
*「(目下の者に対して)相手のよくない言動をとがめて、強い態度で責める」
  (『大辞林』第四版、松村明・三省堂編修所編、三省堂)
*「(目下の者に対して)声をあらだてて欠点をとがめる。とがめ戒める」
  (『広辞苑』第五版、新村出編、岩波書店)


以下は臨床心理士・公認心理師の村中直人氏による参考文献*1を足場に、筆者の所論に組み直して進めたい。まず、辞書で「叱る」を引くと……


「言葉を用いてネガティブな感情体験(恐怖、不安、苦痛、悲しみなど)を与えることで、相手の行動や認識の変化を引き起こし、思うようにコントロールしようとする行為」


同書によれば強く叱られた場合、人は生理学的にみて、恐怖・不安など自身の苦痛を回避するため瞬時に「防御システム」を発動し、無意識的に「戦うか、逃げるか」の生体反応を起こすそうだ(上司に対して戦う、の選択肢は通常ないとすれば、逃げる)。人が誤った行動で現場に危険な状況を招いた場合なら、この人を強く叱ることで「逃げ」を呼び、行動を即座にやめさせることができる。脅しにもなる「叱る」には即効性がある(手っ取り早い)からで、これが「叱ることは効果的」という一般の誤解を呼んできた面がありそうだ。

だがその一瞬の危機回避メリットを除けば、「叱る」にはデメリットの方がはるかに多い。

防御システムは単なる「逃げ」の生理的反応であり、人の主体的な学びにつながることはない。「パブロフの犬」的な、動物的反応を刷り込むことしかできないのだ。逆に恐怖、不安、苦痛、悲しみなどネガティブな感情体験は、人に苦く、どす黒い「自己否定体験」を刻印する。屹立した人格を保ったごく一部の人なら、それでも後悔から反省に切り替え、さらに建設的行動に転じていくことができるかも知れない。だが一般には「叱られ体験」がそのまま学びや成長、職場や上司の肯定感につながることは、ない。逆だ。

先の危険行為のように明らかに間違った行動を止めるケースを除き、上から下への一方的な叱責は、人の人格・尊厳を害する行為=従業員のエンゲージメントを棄損する行為になる。この事実を、超・人手不足時代にある私たちは改めて思い知るべきだ。もちろん責任ある上司なら、部下や従業員の不適切な行為に対し、冷静な注意などで「気づき」を促す、諭す、そして指導することは当然だ。しかし自制心を失って感情的に発火し、「声をあらだてて欠点をとがめる/とがめ戒める=叱る」になってしまっては、それはダメなのだ。

わけても合理性に欠ける叱責(叱る本人は職務を果たし良いことをしたつもりでも、一方的に叱られる側は理不尽さを直観する)を重ねるなら、貴重な戦力である従業員たちは、上司と職場に対する否定的感情をつど、蓄積していく。モチベーションは下降し、エンゲージメントは失われ、臨界点に達すれば辞めていくだろう。誰であれ働く人・ひとり1人を人間として敬い、本気で大切にできない組織は、働く人に見捨てられる時代になっているのだ。

それでもなお、「叱ることは効果的で、必要な現場管理手段」という思い込みは、今も多くの組織に、悪しき昭和の残滓としてこびりついているように見える。なぜなのか? と村中氏も考えた。そしてこう結論付けた。そこには、<「人は、(叱責を受けて)苦しまなければ、変化・成長できない」という誤った、根深い、「苦痛神話」とでも呼ぶべき素朴理論>があるのではないかと。現実にはこの「苦痛神話」は、ゆがんだ過去の亡霊、妄執である。もはや「巨人の星」「あしたのジョー」のスパルタ的・非人間的・自己滅殺的鍛錬が賛美された、昭和の日々ではないのだ。

苦しみが成長につながるのは、それが他者から与えられたときではなく、主体的、自律的に苦しみを乗り越えた時だけ――村中氏はこう断言する。父・星一徹にしごき抜かれた星飛雄馬も、コーチ・丹下団平の厳しい指導を受けた矢吹丈も、最後は、自発能動的に自分を鍛え抜く高みに達した。それをしごきの成果とする見方は、改めるべきなのだ。受動的な叱責・しごきの呪縛を断ち切ったから、自立し自律・能動したからこそ、彼らは成長できたのである。

ひたすら一方的に叱られる苦しみは、生理的な苦痛のみならず、個人の行動否定から人の内面・プライドの棄損へとつながっていく。もしそれがみなの面前での叱責や痛罵なら、見せしめ的つるし上げ、人格否定にすら到達する。こうなればもう、立派なパワハラ。アウトである。

前回コラムで私は、「独裁トップと部下のはざまで長年月、悩み苦しんだ親友を持っている」ことに触れた。実は今回のテーマ「叱る」を選んだ意図は、私が友の、その苦しみの奥底までついに思い測ることができず、力になれなかったという深い悔恨から発している。私が彼からすべての話を聞けたのは、彼の心身の疲弊が極限に達し、ついに倒れて会社を辞めたあとのことだった。

COOを務めていた彼は、強権的オーナートップのCEOから、日常的に叱責され続けていた。毎日。いや、日に2度、3度も。多くは部下もいる執務室内で。叱責はすぐ罵倒に至り、一度始まれば30分、1時間、果ては2時間も立たされたまま、怒鳴られ続けたこともあったらしい。

それだけで、このトップの異様さ、異常さは分かる。完全なサイコパス(共感や良心の欠如を特徴とする人格的特性:先天性で計画的)、あるいはソシオパス(他者への共感性が乏しく、社会的なルールや規範を無視する傾向のある人:後天性で衝動的)であろう。

でも、なぜ、中小とは言え企業オーナーを務めるような人間に、そんな破壊的な行動ができるのか?……私の心に黒雲のようにむくむくと、疑問が湧き上がった。そして、遅きに失したとはいえ、友の悲惨な経験を無為にしないためにも、何かできないかと考えた。「そうだ、その核心を探り当て、世に伝えよう!」と決め、調べ、学んできた。

その小さな成果の1つが本稿であり、話はさらに恐ろしい「叱る」の闇に踏み込む次回作、「”叱るドランカー”のパワハラ上司が、現場を破壊する」に続く。幸い、親友は退職を決めてすぐ自宅療養に入り、「唯一の直接病因」からの完全隔離を果たせたことで、急速に回復。3か月後には新天地を得て復職し、今は元気一杯に活躍している。そんな彼が振り返った当事者体験を含め、次回はリーダーシップのあるべき姿/あってはならぬ姿を広い視点で追求したい。


<注>*1/厚生労働省 令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査 事業報告書」、https://cancerscan.jp/news/153/
<参考文献>*1/村中直人、「〈叱る依存〉がとまらない」、紀伊國屋書店、Kindle版。

(つづく)


著者紹介

菊田 一郎 (きくた いちろう)
エルテックラボ 代表/物流ジャーナリスト。1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。2017年6月より大田花き社外取締役、2020年6月より日本海事新聞社顧問(20年6月~23年5月)、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル顧問。
著書に『先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える』(白桃書房、共著)、『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」』(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。


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