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任せた?丸投げ?…決めるのは「文脈」説を吟味する~山口周「コンテキスト・リーダーシップ」を本質論の俎上に~
![<あるある! 物流カン違い/シーズン2> ~人材施策編[8]~ 任せた? 丸投げ? …決めるのは「文脈」説を吟味する ~山口周「コンテキスト・リーダーシップ」を本質論の俎上に~](https://www.okabe-ms.co.jp/wp-content/uploads/logisticscolum08.jpg)
(2026.09.15)
◆コンテキスト・リーダーシップとは
ライプニッツ代表で独立研究者、著作家の山口周さんがこの4月に上梓した新刊『コンテキスト・リーダーシップ 「最高の上司」と「最悪の上司」は文脈で決まる』 (光文社新書)は、<従来のリーダーシップ論に蔓延する「危険な誤解」を解く>と謳うだけあって、本コラム「あるある物流カン違い」と共通する思いにあふれている。
おりしも「シーズン2」であるべき物流リーダー像、リーダーシップの在り方を追求しているさ中だったから、筆者も早速手に取ってみた。なるほどだ。本書の結論を簡単にまとめると……。
◆リーダーシップは従来、リーダーが“何をするのか"という行為論ばかりで語られてきたが、
それは危険な誤解。
◆行為以前に、それまでに築いてきた上司と部下の関係、そこに至るまでの経緯、その瞬間
に部下が置かれた状況……etc.をまるごと含めた「文脈・コンテキスト」において、
リーダーシップは発現する。
◆コンテキストは千差万別だから、「優れたリーダーの行為」を形だけ真似てみても、
異なるコンテキスト、タイミングにおいて「優れたリーダーシップ」は生まれない。
◆「コンテキスト・リーダーシップ」を発揮するには、「コンテキストを読む読解力」と「コンテキ
ストを編む編集力」の2つが必要。日本社会の長所が大いに生かせそう。
◆その力を磨く方法として、7つの基本教養を身に付けることを促す。
(1)歴史、(2)哲学、(3)経済学、(4)社会学、(5)心理学、(6)文学・芸術、(7)宗教
(…これらは私もかねて学びを推奨してきた「リベラルアーツ」群であり、大賛成だ/傍線筆者)。

「任せる」か「丸投げ」か…決めるのは、コンテキスト
◆「任せる」と「丸投げ」
著者の言う「文脈・コンテキスト」とは? 少々把握しづらいので、本書冒頭に示された「任せる」と「丸投げ」の例で説明しよう。ある案件の遂行について、Aリーダーは部下のBさんに一任することにした。これは、「任せた」のか、「丸投げ」したのか?
「……それだけじゃ、分かんないよ。やり方とか、程度とか、状況によるからさ」(読者代表?)
その通り! 「一任したという今回の行為・事実」からだけでは、どちらとも判別できないよね。だから「状況や文脈」を知ることが必要なのだ。たとえば…
*これまでにA上司と部下Bとの間で、どこまで信頼関係が築かれていたのか
*話の経緯や程度……納得できる経緯で、合理的な範囲を委ねられたのか etc.
本書が示す2つの相反ケースを、筆者の加筆を交えて例示しよう。
<ケース1>部下が上司を信頼し、「最後は責任を取ってくれる人だ」と思っていた場合
Bさんは「大事な仕事を任された」と受け取り、頑張るぞ!と決意する。多少ぞんざいな仕事の渡し方をしても、「丸投げ」とは受け取られにくい。
<ケース2>部下が上司を「信頼できない、常にラクをしようとする人だ」と思っていた場合
背景説明があっても、Bさんは「私に丸投げして、自分は回避するつもりだな」と上司を疑う。
このように、一見「同じ行為」であっても、前後の状況や背景、互いの信頼関係といった「文脈=コンテキスト」によって、それは「任せる」にも、「丸投げ」にもなり得る――と山口さんは書く。片や「最高のリーダーの行為」として、片や真逆の「最悪のリーダーの行為」として、部下から意味づけされると言うのだ。なかなかに恐ろしいことではないか?
逆に、上司が仕事の進め方を部下に指示する場合、ケース1なら「的確な指示」と受け取られるのに対し、ケース2では些細なことまで口を出す「マイクロマネージ」とうるさがられるかも知れない。「今その場での行為」だけでなく、時間的に遡った「以前の行為と、その集積からなる人間関係」まで含めた総合的なコンテキストを読まないと、判断を誤るということだ。
◆リーダーシップの目的と手段
以上は優れた分析、提言である。一方、本連載で筆者が主張する「人材育成・本質論」の視点からすると、不満も残る。本書を俎上に、後半は独自の深掘り検証に入ることにしよう。
物事の本質に素早く辿り着くため、筆者は常に、「そもそも、何のため?(目的)」と「どうやって?(手段)」を最初に見定めることにしている。わが「人材本質論」の理路は、以下であった。
(1)この十数年の超・人手不足時代、働く人を定着させられなければ事業は持続不可能
(2)それには待遇や労働環境、特に心理的安全性などメンタル環境の保全が超重要課題に
(3)メンタル環境を左右する最大要因は、上司・リーダーの振る舞い、突き詰めれば人格にある
(4)ゆえにリーダーは人間性・人格を自ら磨く「人間性革命:HX」に挑もうではないか!
――以上の本質論の目的と手段は、下のように整理できる。
*目的(何のため?) …事業の持続可能性確保+その必要条件である人材の定着
*手段(どうやって?)…経済的・物理的・心理的な労働環境改善+リーダーの人間性革命
以上を踏まえ、今回のテーマ「リーダーシップ/リーダーの行動目的(ミッション)と手段」を再確認しよう。日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)のシンプルな定義を引かせてもらう。
◆リーダーシップとは
組織を目標に導く統率力や指導力のこと。組織のビジョンを提示して理解を促すほか、メンバーのモチベーションの維持、問題解決などを行う。
◆企業のリーダーに求められる役割
*チームの目標を明確にする役割
*メンバーの成長を促す役割
*メンバーが能力を発揮しやすい環境を構築する役割
*自ら主体となって行動する役割
*熱意をメンバーに伝え、チームの士気を高める役割 etc.
(出典/https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0134-leadership.html)
以上より、職場におけるリーダーシップ/リーダーのミッションは「目標達成」であり、その手段としてリーダーがメンバーを率い、育て、モチベーションを高める役割を求められている。このリーダーシップの在り方を巡り、山口さんは「何をするかの行為だけにとらわれるな/経緯や状況ほかのコンテキストを読んで判断し、編んで変革せよ」と言っているわけだ。
その指摘はよく分かる。だが、「何のため?/どうやって?」への踏み込みが一歩足りないと思えるのだ。著名ライターに対し恐れ多いのではあるが、私流の補足を試みたい。
◆使命感を獲得したリーダー
筆者は人材施策編コラム[4]*1でアドラーを引きながら、上記のような役割遂行に当たるリーダーの基本姿勢(どうやって?)を、こう整理した。――(1)上から目線でなく横から目線で、(2)メンバーの自発性・意欲を引き出し「教えずとも自ら学ぶ」姿勢を獲得できるように、(3)勇気づける(自分の力で課題を解決できるよう支援する≒心からの激励・励ましを送る)こと――。
さらにそこに私の独自視点で加えたのが、「使命感・決意/パーパス(モチベーションの源泉)」という「何のため?」に応える最深部の土台であった。
*1/菊田、『“叱るな/ほめるな/教えるな”ってそれ、ほんと?~驚きのアドラー人材教育論を検証する~』、
https://www.okabe-ms.co.jp/s2-logisticscolumn04
うち、現場リーダー課題を「働く人を大切にし、育てて定着・戦力化すること」としたが、もう一段具体化すると、「働いてくれている人に心から感謝し、大切に育てる/皆がやりがいと安心感を得られる職場環境を作る/信頼されるリーダーに成長すべく自分を磨く」ことになる。ゆえに最後に問われるのは「リーダーの人間性」であり、私は結論としてDXに倣った「HX:人間性革命=Humanity Transformation」の必要性を説いているのだ。
山口さんが従来の能力開発プログラムやリーダーシップ論を、多くが「行為ばかりに焦点を当てた危険な勘違い」だと批判した上で、「あるべきリーダーを育てる手段」として、終章に先述の「7つの基本教養」を加えたのは、この文脈でよく理解できる。「コンテキストを読み・編む力は、単なる情報収集や断片的な知識の寄せ集めではなく、状況の背後にある歴史や制度、価値観、心理といった複雑な要素を横断的に読み解く」必要がある、との考えからだ。
筆者もリーダーの「人格陶冶」の一手段として、リベラルアーツに親しむことが不可欠と考えている。良書に巡り合い、新たな人生観が拓かれる思いに至ることは実際にある。だが、感銘を受けたその後こそが本題、本番なのだ。感銘・感化は登攀ステップの一通過点でしかない。
山口さんも言う「書物からの触発」や、「師匠からの勲発」を求めて陶冶を重ねた末に、私たちが到達を目指すべきゴールは、「使命感の獲得」に尽きる、と私は思う。誰に言われなくとも、「働く人の環境」と「穏健な社会・地球環境」を「私が守らねば」と決意し、立ち上がり、自ら行動する人へと進化を遂げることである。
このリーダーは今、そこにいる部下の人たちに対し、「教科書に書いてある通りに」真似して、あるいは指導者に諭されて、行動するのではない。理屈ではないのだ。求道心で獲得した使命感から湧き上がる、「自他ともに成長しよう/したい」との思いで、自らを律し、勇気づけ/励ましに自走する。行動せずには、いられないからである。
◆再び、「任せた」か「丸投げ」か
私の主張は理想論だろうか? 「なんか、大げさだね~」とかお思いかも知れない。そう、「働く人と地球社会の環境を守る」なんていう力んだテーマでなくてもいい。働くメンバーが、何かしら不安そうだったら、言葉をかける。ちょっとしたフォローをしてあげる。日常の気遣いレベルからでよいのだ。「何かしなきゃ」と思うその心が、いつか「使命感」の大樹へと成長する。
「チーム全員が、仕事で充実感を得られる職場にしたい」「誰一人取り残しちゃいけない」と努力する責任感あるリーダーなら、メンバーは自ずと信頼を寄せてくれる。思いは行動に現れるからだ。そして行動は環境を変える。「自走する組織」が、その先に見えてくる。
* *
最後に、文頭の問いかけに立ち戻り、結論へと逆照射してみたい。山口さんは、「文脈=コンテキスト」によって、「任せる」にも、「丸投げ」にもなり得ると主張した。その理路を本質論視点に向けて組み直すと、こうなる。
◆「任せるor丸投げ」を分かつ最大のポイントは、「信頼の関係性」の有無
◆「リーダーへの信頼」はどこから生まれるか?
◆座学で学ぶ知識/現場で学ぶ経験は不可欠だが、より大切なのは「人間性」
◆「部下に信頼・尊敬される人間性」はどこから生まれるか?
◆使命感・責任感――部下の成長を心から期待し、慈しみ、励ます日々の行動
◆理屈でなく心の底からそう感じ、誰に言われずとも自ら行動する、自律した人格
◆そんなリーダーの一任は「丸投げ」でなく、部下を信頼し「任せる」行動となる
私は皆さんの奮闘を心から期待し、待っている。
(つづく)
著者紹介

菊田 一郎 (きくた いちろう)
エルテックラボ 代表/物流ジャーナリスト。1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。2017年6月より大田花き社外取締役、2020年6月より日本海事新聞社顧問(20年6月~23年5月)、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル顧問。
著書に『先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える』(白桃書房、共著)、『ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」』(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。







